全校の様子を客観的に見る立場の養護教諭の先生が、危険な兆候のある学級を直感的に感じることってありますよね。
かといって、何ができるのかな?と、担任の先生を出しぬいての介入をすることはできません。
もし、あなたに任せるといわれても、実際に何をどうかかわればよいのかも難しいところです。
今回、ご紹介する事例は
3月に ハートマッスルレジリエンスコーチ養成コースを修了された 愛知県のO先生の実践です。
以下、O先生からの実践記録です。
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5年生は、低学年のころから人の話をよく聴かず、突っ走ってしまう児童や人間関係づくりが下手で孤立してしまう児童がおり、担任が学級経営に苦慮した。
以前、養護教諭が心の授業で「腹が立ったときは、自分の気持ちを話そう」と表してアサーショントレーニングをしようとしたところ、
・腹が立った相手に気を遣って話してもしかたがない
・相手が悪いのだから、相手が変わらないとこちらは優しくなれない」
という意見が出て、授業にならなかったということもあった。
担任からクラスの様子を聴くと、児童同士がお互いにやさしくかかわることができず、人をバカにしていたり、担任以外の教科担任にも反抗的で、授業をボイコットしたりしているとのことであった。
そこで、今回は、レジリエンスコースで学んだことを組み合わせ、クラスづくりに参与することになった。
(2)実践内容を担任と話し合う
①担任ともにクラスの強みと弱みを発見する。
レジリエンスコースで学んだ「強みと弱みのマトリックス」を利用して、担任とともにクラスの強み・弱みを出し、その強みや弱みがチャンスに働くときと脅威に働くときを考えた。
担任は、このクラスの強みを「まとまるとすごい力を出す」とした。それか脅威に働くときは「反抗的になったら止められない」「注意できる児童がいない」とした。
これをもとに取り組みを考えることにした。
②2学期末から3学期にかけての取り組み
担任と一緒に、「2学期末から3学期にかけて、どんな取り組みをすると、児童同士が互いを認め合い、クラスがよりよい方向に向かっていくか」を考えた。(担任の想いに伴走し、コーチングをしながらの話し合い)
ゴールについて共通認識をもつことができたところで、次に、この目標を達成するために、担任と養護教諭がどのようにアプローチしていくかを話し合った。
・児童にみんなが「このクラスでよかったな」と思えるようになるには、どうしたらよいか、考えさせる。
・朝の会や学級活動で話をする。 児童をほめる場面をつくる。
・学級活動 (自他を知る活動 担任の自己開示)
・こころのほけんだより(ソーシャルスキル教育)を作成。担任が指導。
・魔法の人生カード・キャスティングマップで自他理解をすすめる
・毎週木曜日朝の会に、人生の魔法カードやキャスティングマップを使った自他理解が進む活動をする。
★時間帯:朝の会10分 席の近くで3~4人グループをつくる。
★活動の概要・コンセプト
・キャラクターを通して自分がわかり、友だちの理解にもつながる活動
・人を知り、他者を知り、自分の価値観を知る活動
・価値観とは、自分が大切にしていること。その価値観はだれにも非難される物ではなく、自分自身のもの。だから、それに対して人は何も言えない。
・ソーシャルスキルを取り入れ、授業のルールを作る(人の話を聞く時/うなづき/ありがとうの言い方/相手を見て/聞こえる声で/頷いて聴く/手遊びNG/発言などへの否定NG)
★キャスティングマップを応用的に活用する。
登場人物は、キャスティングマップに登場する中世のヨーロッパの人達。
カードをばらばらにし、偶然引いた1枚のカードのキャラクターの性格を自分で考え発表する。
人の話を肯定的に受け止めて聴く(なるほど、へぇーなど。合意する必要はないが、否定はNG)
全員が発表し終わったら、そのキャラクターで物語を作る。
最初と最後は「お願いします」「ありがとう」を言う。
<児童がつくった話の例>
キャラクター設定
騎士:かっこいい・スマート 王様:太っている 犬:王様が飼っている犬
騎士:第一王子の味方 第一王子・第二王子:王様亡き後、国の王の座を狙っている。
ジョーカー:第三の王子
王様は騎士にあこがれていた。騎士と一緒に狩りに出るため馬に乗ったら、体重が重くつぶれてしまった。
だから王様が必死にダイエットして今度は犬に乗ってみたら、犬はつぶれてしまった。
(※王様になった児童は自分が太っていることを気にしていた)
王様が亡くなった後、王子1・2の間で王の座をねらい戦争が始まった。
騎士は第一王子の味方になり、第二王子が困っているところに、第三王子がやってきた。
第二王子は、味方になってくれると思ったら、第三王子は、「戦争はやめて、平和ら解決しよう」と説得した。
(※このとき、たまたま王子が二枚、束の中に入ってしまっていた)
3 まとめ
担任からは「男女がとっても仲良くなり、つんつんした感じがなくなった」と言われた。
また、隣のクラスの保健主事からは
「以前は、あのクラスを通る度に嫌な感じがしていた。でも、最近そんな感じがなくなった。何かあったのかなと思っていたら、この活動だった。すごく効果があったと思う」
と言われた。
担任は活動に理解があると同時に、児童を信頼し、児童間との関係も良好だった。保健主事も同様、児童の見方のアドバイスをしてくれた。二人とも私を信頼し、活動を委ねてくれた。
私も、担任・児童を信じて活動した。児童は理解がゆっくりだったり、少し意地悪だったりするが、本質的なところでは話してわからない子たちではない、大丈夫だと信じて接していた。
人を信頼し認めると、それが人に伝わり、どんどんその輪が広がっていく。
そういうことを実感する活動となった。
さらに、キャスティングマップの可能性にも驚いた。
自分じゃない誰かになって、自由に想像すると、安全に本来の自分をさらけ出し、本音の交流が生まれ、本来の自分を取り戻すことができた。
キャスティングマップは、それができるツールになるとわかった。これからも、この活動を広げていきたい。
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O先生は、平成27年に 保健室コーチングベーシックコース名古屋7期を修了、平成28年に保健室コーチングアドバンスコース関西1期、続いて ハートマッスルレジリエンスコーチ養成コースを修了されました。コースを受講されるたびにO先生が大きく成長され「別人」のようになっていかれたことは、多くの同期生が認めるところです。
もともと、勉強熱心で、常に「何かもっと子どもたちに還元できるよいものはないか」と、様々なことを学び、チャレンジし続けていらっしゃったO先生。
しかし、せっかく勉強したことが、なかなか周りに受け容れてもらえないと感じていらっしゃいました。
しかし、保健室コーチングを学ばれる中で、その原因が周りではなく、自分自身のコミュニケーションのクセにあること、根強い思考パターンがあることに気づかれ、その改善にも積極的に取り組まれました。
さらに、レジリエンスコーチ養成コースで、「人に伝える」という視点から、あらためて「やり方」「スキル」ではなく、「あり方」が左右するのだということを深く理解された結果、このように「学級そのものを変えてしまう」だけの実践となったのだと思います。
一連の流れを見ると、保健室コーチングで学んだ「課題解決のためのコーチング的発想」が生かされています。つまり、担任の先生にうまくいっていないことやできていない現実について責めるのではなく、担任の先生から「未来の解決像」を引き出し、それに向かって具体的に何ができるかを担任の想いに伴走していらっしゃいます。
さらに、共通認識した「解決像」に向けて、お互いの立場で「何ができるか」を話し合っていらっしゃいます。これも保健室コーチングで学ぶ交渉術が生かされています。
そして、注目すべきは、ハートマッスルレジリエンスメソッドの1つキャスティングマップの応用的かつ柔軟性あふれる活用。
この柔軟性も、カードの持つ脳科学的理論、人の変化にかかわる原理原則をしっかりと理解されているからこその活用法だと心から感心しました。
保健室コーチングは、単に「1対1の個別アプローチ」だけを学ぶものではありません。
職場での職員との良好なコミュニケーション、集団への保健指導、コーチング的思考による問題解決力、自分自身の内面的成長、発信力など、自分の専門性を高めるとともに周囲を巻き込んだ影響力を高めることになるのです。
O先生、素晴らしい実践をありがとうございました。
キャスティングマップって何? ? http://heart-muscle.com/casting-map/
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