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桑原朱美公式ブログ

「養護教諭の相談活動の在り方」東京3期ベーシック修了生レポート 

保健室コーチングベーシックコース東京3期 修了生レポートを次々と紹介させていただいております。

今回紹介するのは、「養護教諭の教育相談の在り方」について、地区で研究発表されたベテラン養護教諭の先生が、研究の要綱としてまとめられたものを提出してくださいましたので、ご紹介したいと思います。(事例については個人が特定されないよう再編集していただきました)

 

 

〈研究レポート?養護教諭が行う教育相談の在り方?より抜粋〉

○ コーチング的なアプローチについて

私は昨年度より,元養護教諭の桑原朱美氏が実践した「保健室コーチング」を取り入れている。
「保健室コーチング」とは,カウンセリングとコーチングの両方を生かした,現場から生まれた科学的なアプローチであり,また,一人一人の可能性を引き出し,生きる力を育てる教育的アプローチである。

 

 

ア 「保健室コーチング」の目的
(ア) 心因的問題で保健室に来た子どもたちを,限られた時間(休み時間の10分間)で授業を受けることができる状態に戻す。
(イ) 問題を学びのチャンスに変えて,思考と行動に変化をもたらす。

 

 

イ 「保健室コーチング」の3つの視点

(ア) 視点1 言語
主として言語を使ったコーチング的アプローチ。的確な質問で,子どもたちの思い込みを解除したり,問題解決のための方法を引き出したりする。

(イ) 視点2 フィジカル(身体)
心と体の密接な関係を理論的に活用し,体に直接触れて不安や緊張を軽減していく。

(ウ) 視点3 体感
子どもたちが取り組みやすい動きのあるワークで,リフレーミング(別の方向から物事をとらえる)を起こす。短時間で,マイナスの感情が「大丈夫」の感覚に変化する。

 

 

ウ 支援者の留意点

(ア)問題を解決するのではなく,気付きを引き出すこと。
(イ)相手を助けてあげたいという想いは,相手の力をうばったり,共依存の関係の原因となったりする。
(ウ)教育相談は,「問題を見つけること」ではなく,「一人一人の内面を理解すること」。
(エ)来室者の話を聞くことは大切だが,ケースによっては,話せば話すほど自分の思い込みのループから抜け出せなくなる子どもがいる。

 

 

○ 仮説 

不適応症状を呈している生徒が保健室に来室したとき,養護教諭がコーチング的なアプローチを行えば,生徒は自ら課題に気づき,内面の変容を図ることができるだろう。

 

 

事例1 頭痛・気分不良の女子生徒 ←視点1 言語

★対応
検温、問診、異常なし。その後、『質問カード』を使用
少し考えながら,5つの質問に自分なりに答えている様子だった。少し保健室で休み、その後、気分を聞くと「とてもいいです!」と,すっきりした表情で4校時授業に戻っていった。

 

 

事例2 気分不良の男子生徒 ←視点2 フィジカル(身体)

★対応
検温,問診,血圧→異常なし。熱中症を疑ったがその兆候は見られず。大丈夫と言いながらも緊張が見られたので、不安や緊張をとるワークをした。
『へそにふた』のワーク…自分の腹部(丹田)に両手でちょうどへそにふたをするように手を置く。そしてゆっくりと腹式呼吸を繰り返す。息は口からフーッと全て吐ききってから鼻から吸い込むようにする。副交感神経が高まり,心身のリラックス効果が得られる。『へそにふた』という分かりやすいフレーズで,小学校低学年でもイメージしやすいという実践報告がある。
この生徒は、何回も腹式呼吸を行った後,和らいだ表情で授業に戻っていった。また,ドキドキしたときやクラクラしそうなときにやるように話をした。 腹式呼吸のリラックス法は,毎年1年生の2学期に「ストレスマネジメント」の授業で行っているものである。

事例3 不適応の男子生徒 ←視点3 体感

★対応
来室して、出口のない話が始まったので、「気分が軽くなるワークがあるので,試してみませんか」と誘ったら,「やってみます」との答えだったので実践した。
『スタジアムビューイング』…空間移動と同一化体験(アソシエイト)・分離体験(デソシエイト)の原則を活用したシンプルで効果性の高いリフレーミングのための手法。固定した焦点やとらわれが,空間を移動することで,分離体験(デソシエイト)できる。これにより問題を客観視できる(距離を置く,俯瞰する)ので,感覚に変化が起き,自分の中の答えが出てくる。
この生徒も、距離を置くごとに、見えてくる自分が小さくなり、同時に客観的に自分を見ているように言葉を発していた。終了後、感想を聞くと「「心が軽くなった。今まで変な力が入っていたみたい」「簡単にできるので,家でもやってみたい」とのことだった。

 

 

実は,私自身もイヤな気持ちや悲しい気持ちでいっぱいになってしまったときに,何度かこのワークを行ってみたが,ほんの数分間で視点が変わりそれに従って気分も楽になり,高い有効性を実感している。

 

 

ワークを取り入れた,コーチング的アプローチについて,適切なのかどうか,スクールカウンセラーに相談したところ,「どんどんやってみたらいいと思う。やってみて合わなければ違う方法に替えればいいし,さらに工夫を加えてみるのもよいのでは」との答えであった。
また,養護教諭の感触として,ワークを行ったときの効果は実感しているが,そのときだけの応急処置的なものになってしまって,その後の内面変容につながっているのだろうか,という不安があった。これについて,スクールカウンセラーは,「セルフケアになるので,その後の人生の役に立つものになっていく可能性は十分にある。有効性はある。」とのことであった。

 

 

 

○ まとめ

不適応症状を呈している生徒が保健室に来室したとき,養護教諭がコーチング的なアプローチを行ったところ,生徒は自ら課題に気付き,内面の変容を図ることも期待することができた。

 

○ 今後の課題

私は,本研究をまとめる中で,養護教諭が行う教育相談には,保健教育と同様の分類ができることに気付いた。それは,①応急処置的な教育相談,②健康教育的な教育相談,③専門家につなぐ入り口としての教育相談である。
この分類で考えると,今回取り組んだものは,来室者に行った①応急処置的な教育相談である。今後は,計画的に行う②健康教育的な教育相談に取り組む必要がある。全ての生徒を対象にした予防的な意味をもつものである。
また,コーチング的アプローチについて,ワークの幅を広げて,さまざまな生徒・保護者に対応できるようにしていこうと考える。このワークは,保健室の中だけで有効なわけではなく,いろいろなところで使える面白いツールなので,他の職員にも紹介して学級の中でも使ってもらえると,学級全体に予防的な意味で活用できると思う。実際,他県の高校のある学級において,ショートホームルームの時間に毎日『質問カード』を使っている実践発表があった。コーチングを学んだ母親が家庭で使っている例もあった。
教育相談において,コーチングの有効性・可能性は高いと考えるので,今後とも研修を積んでいきたい。

 

 

参考文献

文部科学省「中学校学習指導要領解説 総則編 平成20年9月」
文部科学省「中学校学習指導要領解説 特別活動編 平成20年9月」
教育相談等に関する調査研究協議会会議「児童生徒の教育相談の充実について」平成19年7月
(株)ハートマッスルトレーニングジム「保健室コーチング ベーシックコーステキスト」(2016)一般社団法人 全国保健室コーチング連絡協議会
(株)ハートマッスルトレーニングジム「心のアプローチグッズ?理論と活用方法?」
高賢一「学校教育相談における養護教諭の役割に関する考察」金沢星陵大学 人間科学研究 第4巻 第1号 平成22年9月

 

 

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